わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 「絶対貧困 ― 世界リアル貧困学講義」(石井光太、新潮文庫)

2015年8月23日

イメージ 1

 

本書は第一部スラム編、第二部路上生活編、第三部売春編から構成され、著者の経験や考えを全部で14回の講義形式で述べています。講義というと普通はスライドを混じえながら行われるのですが、本書でも随所に現場の生々しい写真が使われています。取材の現場はアジア、中東とアフリカです。テレビや新聞から、私もこの地域の貧困については時々映像で見たり文章で読んだりはしていましたが、これだけまとめて書かれた本を読むのは初めてでした。

 

世界人口約67億人(最近70億になったと言われています)のうち、1日をわずか1ドル(約120円)以下で暮らす人々が12億人もいるという現実には驚きます。アフリカやアジアの貧困地域を中心に今世紀末(つまりあと85年後)には世界の人口は100億人になるのではないかと予想されています。ということは、このままで行くと絶対貧困の人口は間違いなく20億人ぐらいにはなるでしょう。急激な人口増加とそれに伴う世界的な食糧難が心配です。

 

スラムや路上生活者が全く絶望的な暮らしをしているかというと、本書を読む限りはそうではなさそうです。彼らは彼らなりにいろいろな工夫をしながらダイナミックに生きています。その生き方が、ちょっとダイナミックすぎて、「先進国日本」に住んでいる私たちにはついていけない感じがするのですが、この本の著者石井光太さんはその現地人に溶け込んで何でも体験してリポートするすごい人です。私など、ちょっとこの地域に水彩スケッチに出かけようなんて気分にはとてもなりませんね。「日本の美しい風景」をのんびり描くなんて、ここの人たちから見たら、「馬鹿じゃないの!」と思われるかもしれませんね。皆その日の生活に必死なのが、本を読んでいてよく分かります。生きるためなら何でもする。ものすごいバイタリティーです。この本を読むと、何だか逆に生きる元気をもらえる気がします。「くよくよ先のことを悩んでいる暇なんかないよ! 今生きるのが精一杯なんだから!」とこの地域の絶対貧困の人に叱られそうです。

 

日本のような「清潔な無菌状態の国」にいると、スラムに住む人達や路上生活者の人達をなんとか経済的に助けて清潔な生活をさせてあげたいなどと思ってしまうのですが、これらの地域にはこれらの地域なりの人々の暮らしや生き方があるので、ただお金をあげただけでは問題は解決できない気もします。アメリカ的な経済優先の考え方を押し付ける(言葉が悪ければ「浸透させる」)今流行の「グローバル化」で本当に地球全体の幸福を増幅させることができるのか、将来絶対貧困の人口を少しでも減らせるのか、ちょっと疑問です。よく言われるように一部の人だけが富み、大多数の人はかえって貧困の程度が増すということも起きるかもしれません。日本の国際協力機構JICA)がやっているような農業技術支援や教育支援など平和的で地道な国際支援が大変大事だと思います。

 

一方、日本でも知らず知らずのうちに貧困化が進み、全国の子供の6人の1人は貧困状態であるという、これもまたびっくりするような報告も最近出ました。貧しくても人は何とか生きていけるのですが、それにしても日本の国の中でも世界中でも貧困がこれから重要な問題になるなと、この本を読んで感じました。日本も世界もこれから次第に豊かになっていくというのは甘い幻想なのでしょうか。団塊の世代の私としては、ずっと右肩上がりの世界で生きてきたので、これから先、右肩が下がるというのはどうもピンと来ません。