わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

名著を読む 『赤毛のアン』(ルーシー・モンゴメリ著、村岡花子訳、新潮文庫)、『100分de名著 モンゴメリ 赤毛のアン』(茂木健一郎著、NHK出版)

2020年8月1日

 

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まず最初に読んだのが茂木健一郎さんの『100分de名著 モンゴメリ 赤毛のアン』。「はじめに」の大きな見出しが、「男子も読もう、赤毛のアン」。そうなんです。私は『赤毛のアン』は女子学生の読む本だと思い込んでいて、いままでこの歳になるまで(70歳過ぎるまで)読んだことがありませんでした。今まで、この本の評判はあちこちで耳にしました。しかし上に述べたような先入観もあってなかなか読む気分になれず、今回このガイドブックを読むことで茂木さんの『赤毛のアン』に対する熱い想いが強く伝わり、ようやくこの名著を読むことになりました。

 

原著のタイトルは “Anne of green gables”。Gableとは切妻屋根のことで、「緑の切妻屋根の家のアン」ということになります。Gableの日本語の意味を知らず、また切妻屋根の正確な知識も無かった私にはここでちょっと勉強になりました。

 

「第1章 レイチェル・リンド夫人の驚き」の最初の書き出しの部分を引用します。訳者の村岡花子さんの文章が流れるようにきれいです。

 

「アヴォンリー街道をだらだらと下って行くと小さな窪地に出る。レイチェル・リンド夫人はここに住んでいた。まわりには、榛(はん)の木が茂り、釣浮草の花が咲き競い、ずっと奥のほうのクスバート家の森から流れてくる小川がよこぎっていた。森の奥の上流のほうには思いがけない淵や、滝などがあって、かなりの急流だそうだが、リンド家の窪地に出るころには、流れの静かな小川となっていた。それというのも、レイチェル・リンド夫人の門口を通るときには、川の流れでさえも行儀作法に気をつけないわけにはいかないからである。リンド夫人が窓際にすわり、小川からこどもにいたるまで通行のもの全部にするどい監督の目を光らせていて、ちょっとでも腑におちない点やふつごうなところを見つけたが最後、その理由を根ほり葉ほり、さぐりださずにはおかないということを、川の流れのほうでもわきまえていたのかもしれない。」

 

このように、孤児院にいた11歳の赤い髪の少女アン・シャーリーがgreen gables(グリンゲイブルス:緑の切妻屋根の家)の年老いた兄弟マシュウ・クスバートとマリラ・クスバートに引き取られ、新しい生活を始める様子が、カナダのプリンス・エドワード島の美しい景色を背景に描かれます。若い読者は多分アン・シャーリの気持ちになって、物語に入っていくでしょうし、私のような高齢者はマシュウやマリラの気持ちになって物語に入っていくでしょう。初めはアンを引き取ることをためらっていたマシュウとマリラですが、生まれつき明るく活動的なアンの魅力に次第に引き付けられ、最後はアン無しには生きていけないと思うほどに気持ちが変化していきます。その辺りの描写が見事です。グリンゲイブルス周辺の四季の自然の描写もとても魅力的。この本の主役はもちろんアンですが、マシュウとマリラ、特に最初、一見冷淡で芯が強く、気難しく見えたマリラの存在感がとても大きく、アンとの様々なやり取りの中で次第に現れてくる彼女の優しさがとてもうまく描かれています。

 

アンは自分の赤毛にコンプレックスを感じながらも、多くの友達に恵まれ、成長していきます。ギルバート・ブライスという気になる男の子も現れるのですが、ギルバートがアンの赤毛をからかったことから、アンの気持ちが折れ、それ以来お互いに全く気持が通じませんでした。アンは学校の成績がトップ。仲の悪いギルバートと成績で1,2を争っていました。アンもギルバートも難しい入学試験を突破して遠くの上級学校へ進学。そして二人とも教職を得ます。ちょうどその頃、年老いたマシュウが急死。マリラを一人でグリンゲイブルスに置いておけないと感じたアンは、大学進学を諦めて地元の学校の教職につくことになります。その時、すでにアヴォンリーの学校の教職につくことが決まっていたギルバートがアンの気持ちを察して、アンにその教職を譲ったのです。それを知ったアンはギルバートの思いやりに感激し、ギルバートと会って和解しました。こうしてアンは地元で教師として新しい生活に踏み出します。この時アンは16歳になっていました。

 

この物語は第2巻「アンの青春」、第3巻「アンの愛情」へと続いていきます。

 

私は、昨年は新型コロナが流行する前に、地元の小学校でボランティアをしていました。その時出会った子どもたちが皆、このアンであるような気がして懐かしくなります。早くコロナが終息して、またあの子どもたちと一緒に勉強できる日が来ることを願っています。そして小学校の高学年や中学生になったら、ぜひこの本を読んでもらいたい。彼らはリアルタイムでアンと一緒に生きていける喜びを感じるはずです。

 

ついでに「赤毛のアン」のビデオもあります。アマゾン・プライムビデオで無料で見ることができます(初めてプライムビデオを視聴しました)。とても元気で明るいアン・シャーリーの物語と美しいカナダの風景を映像で楽しめます。