絵描きには　なおうらめしき　古刹（こさつ）かな　（奈良県生駒郡斑鳩（いかるが）町　法隆寺五重塔水彩スケッチ）

２０１８年１２月

奈良の法隆寺に来ました。JR大阪駅から大和路（やまとじ）快速で法隆寺駅へ。大阪駅のホームは日曜日の行楽客で朝からごった返していました。大阪駅から法隆寺駅までは４０分程の距離です。電車は、沿線にぎっしりと隙間なく民家が立ち並ぶJR大阪環状線を南に向かい、天王寺でJR関西本線に入ります（JR関西本線は正確にはJR難波～名古屋間です）。満員電車の乗客は奈良まで乗る人がほとんどのようで、途中の法隆寺駅で下車した人は数人でした。法隆寺駅前はまだ田舎の雰囲気があります。以前法隆寺に来たときには、今から２，３０年前の話ですが、道路から見えた田園風景の中に法隆寺の五重塔が立っていた記憶があります、その時の私のかすかな記憶が正しければ、法隆寺の周辺には民家以外は目立った建物はなく、風景全体がとても広々とした印象でした。今回来てみると道路も整備され新しい建物も増えて、遠くに法隆寺を望めるような、つまり私がスケッチできると期待した田舎の田園風景はもうありませんでした。

駅から１kmほど歩いて、やがて法隆寺参道に来ました。両側の松の木がきれいです。200 m先に南大門があります。ここから法隆寺境内に入ります。とても広い境内です。観光客は多くありませんが、修学旅行の生徒さんが観光バスで来ていました。さらにまっすぐ行くと五重塔と金堂がある西院伽藍（さいいんがらん）の中に入ります。

初めこの境内でどこか適当な場所で五重塔をスケッチしたいな、と思ったのですが、境内はきれいに掃き清められ、あちこちにある案内板にははっきりと「スケッチ禁止」と書いてあります。世界遺産なので、多分スケッチは難しいだろうと予想していましたが、やはりこの予想が当たりました。仕方なくそのまま西大門から境内を抜けて少し北に向かって登る山道を行きました、五重塔が塀越しにみえる場所を探したところ、１箇所だけ木立の間から塀越しに五重塔が見える場所が見つかりました。今日のスケッチ場所はここに決めました。

暖かい日が当たり、日向（ひなた）では12月なのに少し暑いぐらいの天候です。上着を脱いてイーゼルを立てたところで、急に空腹を感じ、法隆寺に来る途中の和菓子屋さんで買っておいた赤飯をお昼代わりに食べることにしました。もう11時を回っています。多分正午には法隆寺の鐘が鳴るでしょう。

「赤飯を　食べて鐘待つ　法隆寺」

美味しい赤飯をいただいて、水を飲んで、落ち着いてスケッチ開始。そしてしばらく夢中で鉛筆を動かすうちに正午になりました。そして待望の法隆寺の鐘の音。正岡子規が聞いた「柿くへば　鐘が鳴るなり　法隆寺」のあの鐘の音です。ゴーン。

とその時、同時に音楽が流れて来ました。なんとディズニーランドのテーマ音楽でした。「子どもの世界（It’s a small world）」です。斑鳩町の庁舎から流れてくるのでしょうか。まさか法隆寺が流してはいないでしょうね。「和をもって尊しとなす」は聖徳太子の定めた十七条憲法の言葉ですが、法隆寺の鐘とディズニーランドのテーマ曲のコラボには、和を重んじる聖徳太子もさすがにびっくりでしょうね。

「ディズニーの　メロディが鳴る　法隆寺」

やがてディズニーの曲は終わり、後は静けさの中で荘厳な法隆寺の鐘の音だけが続きました。やっぱり法隆寺はこれですね。

しかし、鐘の音を聞きながら、今東京地検特捜部に逮捕されて取り調べを受けているカルロス・ゴーンさんのことが頭に浮かびました。そしてなぜか、昔小学生の頃、近所の友だちにサザエさんの漫画を借りて、そのまま返さなかった思い出も突然蘇ってきました。悪いことをすると、鐘の音だけでも、何でも暴き出されるみたいです。

「ゴーン、ゴーン　今は響きの　悪い音」

２時間４５分でスケッチ終了。剪定（せんてい）された境内の庭木の樹形がちょっと気に入らないのですが、ありのままに描くしかありません。時間が無いので、荷物を片付け、せっかく法隆寺に来たので西院伽藍から入場し（入場料なんと1,500円！）、五重塔、金堂、そして東院伽藍（とういんがらん）の夢殿を拝観しました。世界最古の木造建築群。どの建物も素晴らしい！　感動です。

帰りはバスでJR法隆寺駅へ。帰りの電車もかなりの人で、大阪に近づくと電車は超満員となりました。奈良はとても魅力的なのですが、途中の大阪で電車が混むのが嫌です。新幹線の連絡にあまり時間がなく、最後は重い荷物をもって人混みをかき分けるように階段やホームを走る、かなりきつい旅となりました。それでも、法隆寺五重塔に３時間ほど静かに向き合えたことに満足しました。