わたしの水彩スケッチと読書の旅

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こんな本読んだことありますか? 「原子力安全問題ゼミ 小出裕章 最後の講演」(川野眞治・小出裕章・今中哲二、岩波書店)

2015年9月28日

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今年3月に京都大学原子炉実験所を定年退職された小出裕章さんの、退職前の最後の記念講演を収録したものです。大阪府泉南熊取町にある京大原子炉実験所で長年研究を続けながら「反原発」の運動を進めてきた「熊取六人組」の一人が小出さんです。
 
今回この本を読もうと思ったのは、次第に新聞などのマスコミ報道が減ってきている福島原発事故の現状を知りたいと思ったからです。小出さんは原発反対の立場ですが、原発の専門家なので、「原発の何が問題なのか」、「今、福島はいったいどうなっているのか」という一般市民の素朴な疑問に答えてくれるのではないかと思いました。
 
「今日では100万kWという原子力発電所が標準になっていますが、その標準の原子力発電所1基を1年間運転させようとすると、1トンのウランを核分裂させなければいけない。広島の原爆が核分裂させたウランの、優に1000倍以上のウランを核分裂させなければ、原子力発電所は動かない。そういう機械だったわけです。猛烈に大量な燃料が要る。1基で1年ごとに、こんなに大量のウランを使うのであれば、地殻中のウランはすぐになくなってしまう。
 そしてこれは、もう一つ重要な事を示しています。(中略)1トンのウランが核分裂すれば、1トンの核分裂生成物ができる。」
 
「日本では1966年に、東海原子力発電所が動き始めたわけで、それから58基の原子力発電所を作って7兆キロワットアワー(kWh)、8兆キロワットアワーという、確かに膨大な電気を起こしたわけです。その結果、広島の原爆の120万発分、130万発分というような核分裂生成物を、私たちの世代の日本で、『電気が欲しいよ、便利に生きたいよ』ということで作ってしまったのです。」
 
「この間、いつか、(核分裂生成物は)なんとかなるだろう、無毒化の研究をすれば、科学がなんとかしてくれる、とずーっと思い続けてきたのですが、残念ながらいまだに、放射能を消すという力がないのです。無毒化できなければ隔離しようとして、どこか地面に埋めようと考えているわけですけれども、埋めたところで100万年間、そこにじっとしていてくれなければいけないというようなものです。」
 
その他、福島の現状の解説も大変厳しい内容でした。安倍首相はオリンピック招致の際の演説で「Fukushima is under control (福島はコントロールされている)」と断言していましたが、とてもそのような状態ではありません。高レベルの放射能は今でも海に流れています。そして福島では10万人を超える人たちが避難させられ、4年過ぎた今でも帰れない。恐らく今後数十年帰れないでしょう。現場では毎日7,000人ほどの人たちが過酷な除染作業などに従事しているそうです。こんな地震や火山噴火が頻発する日本で、原発の安全な稼働はとても無理だと思われます。
 
あとがきには「私が京都大学に雇用されてから、一度も昇進ぜず、最底辺の教員にとどまったことを、弾圧されたと考える人もいるが、本書でも述べたように、それは事実に反する。私は奴隷ではなく、誰からも命令を受けず、そして誰にも命令せず、ひたすら私がやりたいことだけを選んでいきてくることができた」とあります。小出さんは最後まで助教でした。この「熊取6人組」のメンバーは京大などを出たエリートなのに全員助教か准教授で定年を迎えています。研究面では多分原発推進派の学者とは異なり研究費もそれほど潤沢ではなかったのではないかと思います。「敗北し続けた人生」と自分の人生を振り返りながら、それでも最後まで自分たちの仕事を貫く、その姿に感銘を受けました。また、こういう仲間で支えあって研究できるというのは、またお互いに励まし刺激しあって、楽しかったのではないかと思います。素晴らしい「研究人生」ですね。
 
今日はこの本を読んで、しばらくはボーッとしていました。予め予想された内容なのですが、インパクトは十分でした。100ページほどの本で、活字も大きく、すぐに読めます。原発の現状を理解したい人にはおすすめの本です。