わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

侍の 末裔(まつえい) 和菓子の 職人に (岡山県津山市 水彩スケッチ)

20148
 
岡山県の県北、津山に来ました。ここは美作の国の中心地。立派な津山城の石垣と堂々とした姿を残す武家屋敷群、そして旧出雲街道とその街道沿いの古い町並みが何とも言えない風情をかもし出す町です。今日はこの津山の西半分、津山城より西の町を回ってスケッチしようとやって来ました。
 
8時30分岡山駅発の高速バスで11時に津山駅に着きました。この高速バス、何と乗客は私一人!出発から到着まで一人です! JRがこの路線に平行して走っているのでこんなことになるのでしょうね。運賃は片道1,200円、往復2,000円。これじゃあ間違いなく赤字ですね。私がもし乗っていなくても、このバスは空のままで津山まで行ったのでしょうね。これ、何とかしないと!
 
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とにかく津山に着いて、津山駅の観光案内所で市内の観光地図をもらいました。それから同じ観光案内所でレンタサイクルを借りて出発です。まず駅前の喫茶「サクラ」に入って名物のワッフルとアメリカンコーヒーで腹ごしらえをしました。実は、今日のコースは私の教え子で津山出身のO君のおすすめコースです。「サクラ」、なかなか雰囲気のある喫茶店です。扉を開けると、朝なのにかなりの人が席を占めていて、皆大きな声で楽しそうに話しています。さすがO君のおすすめだけあって人気だなあと、感心。出てきたワッフル、美味しかったです。


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お腹が落ち着いたので勘定を払おうと席を立つと、店のお客さんたちがみな一斉に「ありがとうございます!」。なんだ、朝からやけにお客さんが多いと思ったら、みんなお店の人だったんだ!(ご近所の人たちかもしれません)


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自転車で次に城見橋へ。吉井川にかかる橋でここから見える津山城址の風景が秀逸です。今日は8月の割には気温が少し低めだし、ここでスケッチしてもいいな、と思ったのですが、まだ時間がたっぷりあるので最後にまたここに立ち寄ってスケッチしようと、その場を去りました。



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次のポイントは岡山県立津山高校です。この高校の明治期に建てられた旧本館は国指定重要文化財です。この津山高校の方向へ向かって新しい大きな道を自転車で進んだのですが、途中で次第に坂道になってきました。昨日テレビでツール・ド・フランスを見たばかりだったので、自分もその気になってペダルをこぐのですが、なにしろママチャリでしかもサドルの位置が低いので思うように前に進みません。何とか足をつかずに坂を登り切って、この辺でそろそろ右折すればいいかなと思って小道に入ると、来ました、来ました、目的の津山高校です。さすがに立派な建物です。ここでいよいよスケッチと思ったのですが、正面は出入口なのでちょっと気が引けました。少し横に移動するといいアングルの場所があったのですが、そこは丁度校舎の工事で工事用の壁が邪魔になって建物の下半分が隠れてしまいます。他にどこかいいところはないかと校舎のまわりをぐるりと2回ほど回ってみましたが、どうも納得のいく場所がありません。仕方なく、またいつか工事が終わってから描くことにして、次のポイントに移動しました。


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次は、城西浪漫館です。ここは旧中島病院本館で、この建物は国登録有形文化財になっている大正時代の古い建築です。この病院の初代院長中島琢之氏は東京帝国大学医学部卒の地元の名医で、津山市長などもつとめた方だったようです。当時の写真などが展示してありましたが、この院長先生、写真で見る限り何となく雰囲気が津山出身のO君とよく似ていて、ナルホド、同じ地域の人間は似た雰囲気になるんだなあ、と妙に感心しました。


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この建物の中に簡単な喫茶レストランがあったので、そこで早めの昼食をとりました。そして昼食後、この建物をスケッチしました。スケッチ時間は1時間半です。旧中島病院本館の横には現在の中島病院の病院棟があって、患者さんや病院の方がときどき絵の横を通りすぎて、声をかけて下さいました。皆さん、絵が好きな方が多いんですね。今日も筆ペンでの下書きなしのいきなりの水彩画です。線が強調されず、穏やかなふっくらした雰囲気になります。最近、自分ではこの感じが好きになってきました。



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やがて絵を描き進むうちに不意に雨粒がパラパラと落ちてきました。今日は降水確率30%なので安心していたのに、またまた不安定な天候です。ちょっともう今日は絵は無理かな、と諦めて地図を見ると、近くに和菓子の武田待喜堂というのがあったので、そこでお土産を買うことにしました。実は今日の旅で一番気に入った場所が、この和菓子屋さんでした。


店に入っていくら大声で呼んでも人が出てきません。ふとみると柱に呼び鈴があったので、それを鳴らすと奥からご主人が出てきました。この方、老齢ですが、雰囲気の有る方で、何でもこの店の六代目だとか。津山藩藩士だったご先祖が明治になって武士をやめて和菓子屋さんになったのだそうです。店の代表的なお菓子が「初雪」。まだ8月の暑い時期に「初雪」もないもんだと思ったのですが、このお菓子はこの地域の有名なお菓子だそうで、テレビにも何度か取り上げられたとか。他にも最近まで2軒の店が同じ「初雪」をつくっていたのですが、廃業してしまって今はこの武田待喜堂だけが作っているそうです。
 
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「このまま食べるのですか?」と聞いたところ、「そうですなあ、火鉢であぶってもらうといいですなあ」との返事。「ええ!? 火鉢ですか?? 今どき火鉢なんて、どこにもありませんよ! しかもこんな暑い夏ですし」と私。「いえいえ。オーブントースターでいいですよ。焼け具合を見ながら適当なところで出して、冷まして食べてください」とご主人。説明書きによると、「火にあぶれば膨れて歯にもろくあたかも積もる初雪の口中(こうちゅう)に消えゆるが如し」とありました。いやあ、じつに風流で気長なお菓子です。津山藩のお殿様がその昔、大量に注文なさったとか。昔は初雪を見ながら城中で火鉢を囲んでみんなで食べたんですかね。「苦しゅうない、近う寄れ」とかいいながら。それともお殿様だけがひとりでボリボリ召し上がったのでしょうか。いずれにしてもさすがに江戸時代の雰囲気のただようお菓子です。
 
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帰りはJR津山線で岡山へ。JRはそれなりに混んでいて安心しました。車窓からずっと景色を見ていると、山の急斜面のあちこちに家が建っています。大雨が降ると山の斜面のすぐ下を走るこの津山線はよく土砂崩れで寸断されます。線路の横にはたっぶりと水をたたえた旭川が流れています。大雨の時はスリル溢れる津山線です。