わたしの水彩スケッチと読書の旅

どこまでも、のんびり思索の旅です

こんな本読んだことありますか? 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著、新潮社)

2021年8月11日

 

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イギリス南部のブライトンに住んでいるブレイディみかこさんのエッセイです。中学に入学した息子さんの学校と家庭生活を通して、現代イギリス社会の断面を読者に紹介する内容です。全体に生き生きとした語り口で、今日のイギリス市民生活のリアリティーにひきつけられます。

 

イギリスには昔から伝統的に貴族階級・労働者階級(クラス)の明確な区別があることがよく知られています。そして、それが現在もイギリス社会のいろいろなところに相変わらず存在していて、市民の生活に様々な影を落としていることもよく知られています。

 

本書はそのイギリス社会にある階級意識や、一般労働者階級の生活の姿を日本の読者に伝えてくれます。イギリスに1週間でも滞在したことのある人ならすぐに気がつくあの独特の「伝統的」な雰囲気と、市民の行動の端々に感じられる階級意識に覆われた何とも言えないディープな気分を、この本から味わうことができます。それだけ、著者の当事者としての思いが込められているのでしょう。

 

みかこさんの息子さんがカトリックのエリート小学校から公立の「元・底辺中学校」へ転校するあたりから話が始まります。そのような転校を決断した理由はわかりませんが、本人の希望に加えて、ひよっとしたら経済的な事情があったのかもしれません。欧米の中学・高校の入学金と授業料(とくに名門校といわれる学校)はかなり高額です(日本も同じですが)。本文中には、夫(本文では「配偶者」)がリストラされて大型ダンプの運転手をしていると書かれていましたので、転校は家庭の経済的事情と息子さんの将来の教育を考えての判断なのかもしれません。

 

新しい中学校の環境の中で、成長をつづける息子さんの姿には、アイルランド人と日本人の混血という自分のルーツを時には意識しながら、人種的には日本よりずっと多様で複雑なイギリス社会で、自分のやり方を次第に発揮しながら自在に生きていく、そんな力強さも感じられます。

 

今は非常に多くの日本人が海外の生活を体験していますので、このような家族の体験はめずらしいものではないと思います。また、海外生活の経験がなくても、日本でも似たようなことを体験したという人も多いかもしれません。それだけ、日本も社会も複雑に変わってきています。経済格差も昔よりは、ずっと明確になってきました。子供の教育を通してみると、その社会の特徴がわかりやすいのかもしれません。ブレイディみかこさんのこの本も、子供の教育という日常的な問題から社会の断面を捉えて見せたといえるでしょう。

 

本書は、イギリスの一般社会に暮らす親子の「現在進行形」の生活報告です。著者がその後の親子の人生の展開をまた引き続き聞かせてくれることを、そしてその後の幸福な展開を、読者は期待しています。