わたしの水彩スケッチと読書の旅

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新型コロナウイルス感染症に効く薬やワクチンの開発には実験動物が重要な役割を果たす (From mice to monkeys, animals studied for coronavirus answers, Science 368(6488), 221-222を読んで)

2020年4月21日

 

世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス(COVID-19)。ウイスルに効く薬の開発やワクチンの開発が世界中から強く望まれています。これに向けて現在、世界各地の科学者たちが奮闘しているわけですが、この開発の際に、実験動物が大事な役割を果たします。新型コロナウイスルに感染した時に、ヒトと同じような高熱、肺炎などの症状を示す実験動物がいれば、それがヒトの良いモデルになって研究が大きく前進するからです。しかし、残念なことに、基礎医学動物実験でよく使われるマウス、ラットなどは、新型コロナウイルスになかなか感染しません(マウスはハツカネズミから作られた実験動物で、ラットはドブネズミを起源とする実験動物。どちらもネズミ)。

 

COVID-19がヒトの細胞に侵入する際には、ヒトの細胞表面に存在するタンパク質受容体ACE2に結合しなければなりません(ちょうどCOVID-19が“鍵”、ACE2が“鍵穴”の関係です)。このACE2のCOVID-19結合部位(ドメイン)のアミノ酸配列が、ヒトのものと実験動物のものとで大きく異なっているため、COVID-19が実験動動物に感染しません(アミノ酸配列が異なると、その“鍵穴”の構造が変わってきます)。遺伝子操作で実験動物のACE2のドメインアミノ酸配列をヒトのACE2のものに近づけた動物も何種類か作られていますが、それでそれらの動物にCOVID-19を感染させることが出来ても、残念ながらヒトが示すような重篤な感染症状が出ないようです。

 

こんな中で、シリアンハムスター(Syrian hamster)が比較的COVID-19に感染させやすく、感染後の症状も検出しやすいことがわかり、注目されています。ハムスターのACE2のCOVID-19結合部位のアミノ酸配列はヒトのものに比べて全29アミノ酸のうち4カ所しか違いません(マウスではヒトに比べて11カ所、ラットは13カ所が違います)。今から15年前に他のコロナウイルスによる感染症SARSが流行した時、そのウイルスにハムスターが感染することがわかっていました。それで香港大学の研究者が今回のコロナウイルスCOVID-19をハムスターに感染させてみたところ、ヒトの呼吸器系への感染で現れる症状と非常によく似た症状が現れることを発見しました。

 

そのほか、白イタチや各種のサルがこのCOVID-19感染の研究に使われています。このように、今回の記事では、抗コロナ新薬の開発やワクチンの開発には、ウイルス感染のモデルになる実験動物をさがすという大事な研究が鍵になることを述べています。基礎医学や生物学の研究では、どの分野でもひとつのモデル生物を使って研究者が集中して研究をするのが普通です。その意味でも、COVID-19の研究でも好適なモデル生物の発見・開発が目下の緊急の課題です。

 

患者の治療に日夜専念する現場の医療関係者の努力には頭がさがりますが、その一方で基礎医学を支える世界中の研究者の努力もすごいです。この両方があってはじめて人類のコロナへの戦いが形を整えることになります。

 

 

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